2013年1月18日金曜日

じんじんの「紫雲膏」その2:このように作っています

じんじんでは、主にお灸の施術の際に、自家製の「紫雲膏」を使用いたしております。

院長は、はり師・きゅう師・あんま指圧マッサージ師の国家資格を取得するために3年間学んだ医療系の伝統校で、「漢方研究会」の会長を務めておりました。

「紫雲膏」は、その「漢方研究会」で基材となるオイルの種類を変えるなど、さまざまな製法を実験して、会員のみなさんと一緒に何度も作りました。

 文化祭の際にはその結果を発表したり、領布会を特例的に開いて、その使用感と効能に大好評をいただいておりました。

今年じんじんで作りました「紫雲膏」は、また新たに資料を紐解き、「日本薬局方」の製法に準じて製作しました。

私用しておりますのは、すべて口に入れても安心なグレードの高い生薬の
・紫根
・当帰

基材のオイルは中国ではそれ自体で薬とされることもある、食用の
・ごま油

安定させるために私用する、天然の
・蜜蝋または
・オウロウ

それと花岡青洲のレシピにあるとおり、少量の
・豚脂

です。

まず、基材となるごま油を専用のホーロー、またはステンレスのボールに入れ、温度計で計りながら180度で1時間熱します。

この作業は、ごま油の中の分子をポリマー化する「重合」という化学反応を促すもので、この段階を十分に時間をかけて行うことが肝要です。
・・・というのは、この作業が後の、生薬の「紫根」の美しい発色を促すことになるためです。

一度油の温度を下げ、蜜蝋かオウロウ、豚脂を入れ、完全に溶かし込みます。

その後油の温度を120度まで下げ、ガーゼに包んだ「当帰」を入れ、15分ほど抽出します。
この時、ガーゼの中の「当帰」が”ワ~ッ”と沸き立ちます。

これを取り出した後、142度をぴったり正確にキープしながらガーゼに包んだ「紫根」を
15分から20分抽出します。
142度になると、やはりガーゼの中の「紫根」が”ワ~ッ”と沸き立ちます。
(他の作例録を見てみると142度は、どうやら紫根の色の変わり目でもあるようです。)

美しい紅色の液体の状態です。
この段階かまたはもう少し覚まして固まりはじめてから、一度全部を濾します。

しばらく冷まして行くと、器の淵からピンク色に色を変えながら固まりはじめます。
(・・・夏ですと、容器を外から水などで冷やす方法を採ることもありますが、私は時間が許す限り室温でゆっくり冷ましてゆく方が好きです。)

ここから一気に練り上げます。
この、「練り」の作業で表面だけでなく内部もすべて美しく滑らかで、”照り”のある使用感のとても良い「紫雲膏」が完成します。

今回は、伸びのよさを求めて、蜜蝋の量を少し調整してみました。

狙いのとおり、素晴らしい使用感の美しい濃い目のピンク色の、2013年バージョンの「じんじんオリジナル紫雲膏」が出来上がりました!!!

・・・材料の計量などの準備から、保存用の器に納めるまで延べ5時間ほど。
着ている服も、髪も、家の隅々までもが3日ほどは胡麻油の香りで充満します・・・。

出来上がった「紫雲膏」には胡麻油や豚脂の強い香りは無く、色味から得られる
心理的な作用もあってか、「イチゴみたいな匂い~」と仰る方もいらっしゃいます。

やけど、ぢ、皮膚疾患全般への万能薬ともされている「紫雲膏」ですが、色白の方ならリップクリームとして、ごくごく薄付きのつやめくピンク色をお楽しみいただけます。

また、手のひらに少しとって暖めながらお顔全体に押さえるように伸ばしていただくと、お顔にほんのり光沢が出て艶めく、素敵な使用感の美顔クリームになります。

この使用感、ぜひ一度お確かめくださいませ。


※文中の温度は、すべて摂氏(℃)で表記しております。



はり・きゅう治療院 じんじん

2013年1月14日月曜日

じんじんの「紫雲膏」その1:由来・使用例など

じんじんでは、主に灸の施術の際に「紫雲膏」を使用いたしております。

この「紫雲膏」は、口に入れても安全な上質の生薬を用い、日本薬局方の作法に基いて院長がすべて手作りしております。

雪に降り込められた、成人式の今日(新成人のみなさま、ご成人おめでとうございます!)、4時間ほどかけて、新しく新年用の「紫雲膏」を心をこめて、集中してつくりました。

「紫雲膏」は、麻酔薬を花岡青洲(※1)が作った外用薬とされています。

明の時代に陳実功という人が書いた『外科正宗』という本がありますが、そこに潤肌膏という処方が載っています。
潤肌膏は紫根、当帰、ゴマ油、オウロウ(黄蝋)という四味から構成された軟膏です。
その潤肌膏に豚脂を加えてつくったのが実は紫雲膏です。(※2)
「紫雲膏」は、かゆみや炎症を伴う皮膚の症状全般と、火傷、そして”ぢ”の特効薬としてよく知られています。

近年では、蚊に刺された時に、皮膚が弱いお子様にも安心して使える虫さされの際の塗り薬としても人気が高まってきています。

ご高齢の常連患者様が、「どうも痒くなって寝ている間に強く引っかいてしまって・・・」と仰り、お腹の引っかき傷をお見せになられました。

痒みの原因は、皮膚の乾燥から来るもののようでした。

その方は、掛かりつけの皮膚科のドクターからも、かゆみ止めの塗り薬をいただいているそうですが、じんじんの手作り紫雲膏を塗ってさし上げたところ、たいへん快適そうで、次の診療の際にも塗ってほしいとご所望されました。

このような皮膚の乾燥、敏感肌、体調・加齢などによる、特に痒みや炎症を伴う皮膚症状がおありの際は、市販品も含めて生薬で出来た、ステロイドの副作用の心配のない、安心して使える「紫雲膏」をお試しになられてもよいかも知れません。


※1一番有名なのは「華岡青洲の妻」というような形で出てくる、いわゆる曼陀羅華、朝鮮朝顔の種子を使った麻酔薬で、世界で一番最初に麻酔薬を実際に人間に試したという話です。
この紫雲膏の応用ですが、例えば紫雲膏に伯州散を加えたり、あるいは紫雲膏にコイのうろこを黒焼きにしたものを加えて、それで乳癌のときに使ったり、あるいは切開した後に紫雲膏を塗ったのではないかといわれております。

※1、※2とも出典:
◇第10回漢方治療研究会特別講演「紫雲膏について」
清水良夫氏(清水藤太郎のお孫さん。清水藤太郎:「日本薬学史」にて薬学博士取得。東邦大学教授・名誉教授。大塚敬節、矢数道明氏ら昭和前期の漢方普及啓蒙活動の中心人物になった、いわゆる七人の侍の一人。著書に『漢方薬物学』『漢方治療の実際』(共著)など多数。)の講演録から。


はり・きゅう治療院 じんじん